「先生、ダンテの神曲を読みたいんですけど」
ある中2の生徒が凄いことを言ってきました。
私が高校の世界史の授業で知り、大学生になってようやく読んだ「神曲」を、まさか中学生が読みたいと言ってくるとは!
元々よく読書をしている子なので、「まぁ何かの本に出てきて興味をもったのね」くらいに思っていたのですが、冷静に考えると驚きます。
中学校の教科書や塾のテキストをあたってみても、ルネサンス期の内容には記述がありません。
どこかで「神曲」の存在に触れる生活を彼がしているということですね。
「神曲」は、地獄編、煉獄編、天国編の3部からなる、キリスト教的世界観を詩の形式で叙述した作品です。
冒頭の数行を引用してみましょう。
われ正路を失い、人生の羇旅半にあたりてとある暗き林のなかにありき
あゝ荒れあらびわけ入りがたきこの林のさまたかることいかに難いかな、恐れを追思にあらたにし
いたみをあたふること死に劣らじ、されどわがかしこに享けし幸をあげつらはんため、
わがかしこにみし凡ての事を語らん
ダンテ・アルギエーリ「神曲(上)地獄」山内丙三郎訳
…中学生、理解できるでしょうか?
いや、おそらくは理解できないのでしょう。
しかし、それでいいと思うのです。
細かいところは理解しきれなかったとしても、そうした作品に触れ、何かに「かぶれてみた」という経験が、将来どこかで、何らかの知識とつながる可能性がありますからね。
数年前、同じく中学生の頃にマルクスの「資本論」やトマス・クーン「君主論」を読んでいた生徒がいました。
彼は今、立命館大学で経済学を学び、模擬国連の活動を楽しんでいます。
何が自分の方向性を決定づけるかは分からないものです。
最近は、そうした古典作品をわかりやすくまとめた本も多く出版されています。
福沢諭吉に代わって愛されることになった渋沢先生の著作を解説した「こども論語と算盤」。
「こども君主論」もありますし、古い本ですが「こどものダンテ 神曲物語」もあります。
勿論、こういった易しい解説書から入っていくのもいいのですが、古典作品そのものに触れて、原典の凄みを感じようというチャレンジ精神も応援したいですね。
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