
最近、興味深い本を読みました。
少し前の本ですが、アンデシュ・ハンセンという脳科学者の『運動脳』という本です。『スマホ脳』で話題になった彼の新刊ですね。
今日は、その本の中から特に印象に残った研究についてお話ししたいと思います。
それは、ADHDと社会環境の関係についての調査です。
ケニアのある部族で興味深い現象が観察されたそうです。
もともと狩猟採集生活を送っていた部族が、ある時二つに分かれました。一方は従来通りの狩猟採集生活を続け、もう一方は農耕生活を始めたのです。
文明の発展過程を目の当たりにできる、研究者にとってまたとない機会です。
そこで彼らが注目したのが、それぞれの集団の中にいるADHDの人たちの暮らしぶりでした。
結果は驚くべきものでした。
狩猟採集生活を続けた集団では、ADHDの人たちの方が栄養状態が良好だったのです。その行動力が、生き残るための行動をより多く起こすことにつながっていたからです。
一方、農耕生活に移行した集団では、ADHDの人たちの栄養状態は悪化していました。農耕社会では忍耐強く一つの作業に集中し続けることが求められ、彼らの特性が活かせなかったのです。
つまり、同じ特質を持つ人が、環境によって「エリート」にも「生きづらさを感じる存在」にもなり得るということ。
これは私たちに重要な示唆を与えてくれます。
人間の脳は実は1万2000年前から大きな進化を遂げていないそうです。むしろ、社会の方が大きく変化してきました。
狩猟採集から農耕へ。そして工業化、情報化と。
その中で、かつては優れた適応能力とされた特質が、「障害」というカテゴリーに分類されるようになってしまった。
特に日本のように「じっと我慢すること」が美徳とされる社会では、なおさらです。
でも、見方を変えれば、様々なことに注意が向き、自然と行動的になれる特質は、別の環境では大きな強みになり得ます。
実際、行動力が重要な実業家の中には、ADHDの特性を持つ人が少なくないとも言われています。
結局のところ、大切なのは「その人に合った環境」なのだと思います。
塾を運営していて、様々な生徒と出会う中で、私はこのことをよく考えます。
子どもたちには、まず自分の特質をよく知ってほしい。
そして、その特質を活かせる場所を見つけてほしい。
保護者の皆様にも、ぜひそういう視点で子どもたちを見守っていただけたらと思います。
私たち大人ができることは、「みんな同じように」ではなく、「それぞれの持ち味を活かせる方向へ」と導くこと。
その可能性を信じて、一緒に考えていけたらと思います。
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なお、私はあくまで一教育者としての立場からの意見です。ADHDについて詳しく知りたい方は、ぜひ専門書や専門家に当たってみてください。
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