トップ画像に載っている本は、例年トーク出版さんが広島の高校入試情報についてんおあれこれを一冊の本にまとめたもの。
各学校の特色や選抜1の小論文課題なんかも載っているので、受験生の皆さんの参考にもなるでしょう。
『広島の学校2021』2,200円です。
広島の本屋さんのどこでも買えるので、気になる方はどうぞ。
(Moveの生徒は塾にありますからね)
平川教育長と田中学習会塾長
さて。
今日この本を取り上げたのは、巻頭で平川理恵教育長と田中学習会の田中宏樹氏の対談が載っているからです。
これが実に興味深い。
平川教育長と言えば、東京で民間校長を務めたのち、広島教育委員会の教育長に大抜擢された方。
就任して程なく、2年後から始まる高校入試改革を率先して導入し、広島の教育界を大改革しようとしている方です。
それに対して、広島県最大手学習塾・田中学習会の創業者にして、会長兼塾長である田中宏樹氏。
35年前に田中学習会を立ち上げ、何千の生徒・保護者さんと、海千山千の講師陣を束ねてきたその人柄を慕う人は多い。
詳しくは実際の本文を読んでもらいたいですが、
何が面白いって、田中塾長は平川教育長の高校入試改革に疑問を呈しているんですよね。
対談の中で噛み付いていると言っていい。
いくつかご紹介しましょう。
平川教育長が、これまでの内申点重視の制度だと
「中学生が、入学時から常に『内申点をいかにあげるか』を意識した学校生活を送らざるを得ない」
と問題提起したのに対し、
田中塾長は、
「内申点は主に定期テストの結果と提出物等を加味して出される通知表から出ますので、生徒たちは意識して当然だと思いますが」
と返します。
さらに、平川教育長が、中3時の内申点が中1・中2よりも3倍に評価される新制度の利点を
「中学卒業までにしっかりと学力を身につければ自分の希望する進路を実現できる」
と力説するのに対し、
田中塾長は
「中1・中2で勉強しなくても中3で頑張ればいいやという考え方では、生きる姿勢も問われます。中1からコツコツ積み重ねた評価が内申の点数になるのが個人的には良いと思います」
とはっきり反論します。
いやあ、文字情報だけから読み取れば、かなり白熱した議論となったようです。
あ。
上の話は対談のごく一部です。
全文はぜひ実物を手にとってご確認ください。
何れにせよ、高校入試に対するお二人の認識は、かなり異なっていると言って良いでしょう。
宮脇の見解
さて、上の2点について、宮脇の見解を申し上げますね。
全面的に平川教育長に賛同します。
現在の広島の高校入試制度において、中学3年間で努力の末に成績を上げた子が、中1・中2時の内申点に足を引っ張られて、自分が真に志望する高校を断念する例はあとを絶ちませんでした。
15歳の時に行う進路選択が、13歳の時の状況に左右される。
意味が分かりません。
13歳の時にある事情で不登校になり、どこかのタイミングでそれを克服したとしましょう。
素敵なことじゃないですか。
しかし、それが原因で15歳の時の進路選択にマイナスの影響が残る。
かなり大きな問題です。
安心して失敗できる環境を、彼らに与えてあげるべきです。
塾で頑張って学力を上げても中1・中2時の内申で志望校を断念した子は、田中学習会さんでもたくさんいたでしょう。
ここに反対する理由がよく分かりません。
また、2年前、平川教育長がこの改革を最初に発表した時にパブリックオピニオンを募りました。
その中で、当時の中2だった女子生徒の意見が印象的でした。
「これまで内申点にビクビクしながら学校生活を送ってきた。だから、その努力が無駄になってしまう新制度には反対です」
不思議に思いませんか。
その生徒は「これまで内申点にビクビクしながら生活してきたのだから、努力が無駄にならないように、これからもその生活を続けたい」と主張したわけですが、そもそも「内申点にビクビクする」中学校生活が健全な学校生活であるわけがない。
彼らが社会に出た時に真に活躍することを望むのなら、貴重な成長期・思春期は伸び伸びと自分の能力を伸ばすことに費やしてほしいと願います。
そうした意味で、僕は平川教育長が進めようとする改革を全面的に支持しています。
もともと広島の入試制度に異を唱えていた僕です。
他の塾がどうであろうと、自らの信念に従い内申点よりも学力そのものを鍛えることに主眼をおいてきました。
「学校の定期テスト過去問を使って定期テストの得点を上げている塾に転塾します」という屈辱的な理由で退塾者を出した経験もありますが、それでも内申点重視の現体制に安易に追従しない道を選んできました。
その中で培ったノウハウがようやく制度に合うようになってきたと喜んでいるのです。
これから身につける力
とは言え、田中学習会さんの功績を完全否定するものでもありません。
田中学習会さんは現行の制度に最適化した塾の一つであり、それに救われた生徒は非常に多いでしょう。
広島教育界に与えた影響と功績(と弊害)は計り知れません。
ですが、僕は今県教育委員会が掲げる「15歳に身につけてほしい力」の3か条は真剣に考えるべきだと考えている人間です。
「自己を認識する力」
「自分の人生を選択する力」
「表現する力」
それらの力を身につけることと、学力を身につけることは決して矛盾しないし、むしろ学力を上げることがこれらの力を獲得することにつながるでしょう。
旧来の価値観・制度にとらわれず
本気でこの制度改革の意味を受け止める時期にきたのではないでしょうか。
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